そもそもトレーディングカードは、アメリカで19世紀後半に販売促進を目的にシガレットカード(タバコカード)として封入されたのが始まりという説が最も多い。
当時のタバコのパッケージは薄く、中の紙巻タバコが折れないように補強する厚紙に着目してイラストごとにシリーズ化したのが、トレーディングカードの原型となった。
日本では、1927年頃に東京六大学野球の花形スターを題材としたグリコのおまけカードが始まりと言われる。
私が子どもの頃はカードはなかったが、読売巨人の長嶋茂雄選手たちプロ野球選手のイラストの入ったメンコが大人気だった。
駄菓子屋さんにお小遣いを握りしめ、よく買いに行った。もちろん子ども同士でメンコ勝負をするが、負ければ相手に取られてしまう。
テレビ中継は巨人戦が中心。メンコは、選手の名前や顔を覚えるのに最適だった。私のコレクションの原点かもしれない。
1951年に紅梅キャラメルが読売巨人の選手カードを封入して大人気となり、それ以降、カルビーキャラメルなど多くのメーカーが企画した。
そして、1973年に発売されたカルビーのプロ野球スナックが、今も続く人気商品となった。
Jリーグ開幕とともにサッカーも一大ブームになり、1993年に発売された「Jリーグチップス」は、プロ野球と肩を並べる人気を博した。
1991年、アメリカで主流となったトレーディングカード(トレカ)として、1994年に日本で最初に発売された「Jリーグオフィシャルカード94」はヒット商品となった。
以後、多くのコレクターを夢中にさせたわけだが、当時は直筆サインカードもジャージカードもなかった。
1997年にベースボール・マガジン社が松井秀樹選手(読売巨人)のユニフォームの断片を挟み込んだジャージカードを「ダイヤモンドヒーローズ97」に封入してから、メモラビリアカードが一般化され、トレカの高級化・進化が始まった。
当時たまたま岡田モアーズに出店していた「スポーツカードミント」を覗いたら、Jリーグトレカが単品で販売されていた。
「J」の文字を型抜いたカードや、自分の持っていたトレカがこんなに高値で販売されているのかと驚くと同時に、トレカの価値を再認識した。
名古屋グランパスのスーパースター、ストイコビッチのジャージカードは確かオークションでも10万円くらいしていた。
レアだったジャージカードも今や定着。いつから封入されるようになったかは覚えていないが、直筆サインカードがそれを上回る価値となった。
当時は練習場に見学に行っても簡単に選手にサインをもらえた。
その後、規制も出て、特にコロナ禍以後は選手との触れ合いはより限定されていった。
当時は選手にサインをもらうのは色紙がメインだったが、プレー中の迫力のある写真に直筆サインが書かれたトレカの出現には心が躍った。
当時は直接カードにサインをしていたが、シール版になり、さらに数量限定の金ペンサインも登場した。
その他、2人・3人の複数選手が一枚にサインする激レア版も登場した。
ジャージカードも、チームエンブレムなどが入ったパッチカードや、ホーム・アウェイのダブルジャージ、抜きも単なる四角ではなくエンブレム型など工夫を凝らしたものも出てきた。
トレカの進化はさらに過熱し、より企画力の高いものが封入されるようになった。
その最先端をいったのが横浜F・マリノスの企画だった。
久保竜彦選手などのスパイクカード、中村俊輔選手・中澤佑二選手などのキャプテンマークカード、GK榎本達也選手のゴールキーパーグローブカード。
さらにユニフォームの背中に入っている選手名を一字一字切り抜いたネームブロックカード。
これに数量限定で直筆サインも書かれたトレカもあって、これは入手が難しく非常な高値が付いた。
アン・ジョンファン選手のジャージ・パンツ・ストッキングが入ったトリプルジャージは画期的だった。
カート購入特典に付いていたエンブレムカードも斬新だった。
他のクラブでも、選手着用の公式スーツのジャージカード、サッカーボールカードなど高級化はとどまりを知らない勢いだった。
行きつくところまで行った感じだったし、どんどん入手できないほど付加価値が高く、価格も高騰していった。
それだけ投資目的も増え、本来のトレーディングカードの「気軽に手に入れ、欲しい選手カードを知り合いと交換する楽しみ」が減っていったと言える。
その中で、その時その時の旬な話題をテーマに発売される「エポックワン」は、新たな魅力あるカードと思う。
それと、横浜F・マリノスがクラブ20周年記念で企画した前身の日産自動車サッカーも含めたヒストリーセットは、直筆サインカードも充実していた。
Jリーグも32シーズン目、各クラブもこうしたヒストリーセットをぜひ企画してほしい。
文:Chief(ライター)
国内サッカーを中心にトレカの世界を長年に渡って見守って来た元スポーツ雑誌編集者。横浜F・マリノスサポーター。ラグビー、相撲にも造詣が深い。
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