NFLにおいて、クォーターバック(QB)は、フィールド上で最も重要なポジションと言っても過言ではないだろう。
試合を組み立て、リーダーシップを発揮し、チームの命運を一瞬の判断に懸ける。
だからこそ、優れたQBはただのスターでは終わらない。
彼らはリーグの顔となり、フランチャイズの歴史を変え、時代そのものの象徴になる。
本稿では、そんなNFL史に名を刻んだ5人のQBの歩みを振り返りながら、それぞれの選手のカードを振り返っていく。
■ トム・ブレイディ
「努力」「ストイック」といった言葉では収まらない。
トム・ブレイディという存在は、「自己管理」と「執念」の象徴とも言える。
ミシガン大学でも当初は控えQB。NFLドラフトでは6巡199位という評価だった。
このときのことをブレイディ本人は「一生忘れない」と語っており、自らのキャリア全体を通じて“過小評価された存在”であることをモチベーションにし続けた。
ドキュメンタリー『The Brady 6』では、199位より先に指名された6人のQBの名前を今でも全て覚えていることが紹介されている。
加えて、食事・睡眠・体調管理に対する執着も尋常ではない。糖質を極端に制限し、夜は21時に就寝。水分摂取の量さえミリ単位で管理する。
「勝つために必要なことは、全部やる」──それが彼の哲学だ。
そしてキャリアを通じて、7度のスーパーボウルを制覇。
移籍先のバッカニアーズでも優勝し、「ペイトリオッツのシステムのおかげで勝てていただけ」という批判をねじ伏せ“Gratest of All Time”の名を不動のものとした。
2000年にUpper Deckから登場したルーキーカードは、当時の細身の体格をそのまま写した一枚。
このわずか1年後、彼はNFLの頂点に立つことになる。
■ジョー・モンタナ
ジョー・モンタナは、飛び抜けてフィジカル的なスペックに恵まれた選手というわけではなかった。強肩でもなければ、特別に体が大きいわけでもない。
しかし彼は、その正確な判断力と、勝負どころでの異様なまでの落ち着きで、偉大なQBの一人としてフットボール史に名を刻んだ。
49ers時代はHCビル・ウォルシュの「ウエストコーストオフェンス」に完璧にマッチ。
ショートパスを正確に投げ、ドライブを細かくつなぐスタイルでリーグを支配した。
彼の数々の逆転劇は「モンタナ・マジック」として知られているが、なかでも象徴的なのが「The Catch」だろう。
1981年NFCチャンピオンシップ、試合終盤に見せたロールアウトからのふわりとしたパス。
エンドゾーン奥のドワイト・クラークが指先で押さえるようにキャッチしたその場面は、今もNFL史に残る名場面だ。
4度のスーパーボウル制覇。MVP3回。だが彼の偉大さは数字ではない。
どんな状況でも彼がいれば「モンタナ・マジック」で勝てると思わせる力こそが、彼の最大の武器だった。
モンタナは多くのカードが発行されているレジェンドだが、現在49ersでエースQBを務めるブロック・パーディとのコンボサインは貴重な逸品だ。
こうした時代を超えたコラボレーションを楽しめることも、スポーツトレカの魅力だと言える。
■ ジョン・エルウェイ
ジョン・エルウェイの名前は、高校時代からすでに全米で注目を集めていた。
スタンフォード大学ではフットボールと野球の両方で活躍し、NFLとMLBの両リーグからドラフト指名。
ニューヨーク・ヤンキースと契約し、実際にマイナーで登板経験もあるなど、類まれな二刀流アスリートだった。
NFLでは1983年のドラフトで全体1位指名を受けるが、当時の球団状況などを考慮し、慎重に進路を見極める姿勢を示す。
その結果、デンバー・ブロンコスへとトレードされ、そこからキャリア全体を通じてこの球団を支え続けることとなる。
エルウェイといえば、やはり第4Qでの逆転劇だ。いくつもの場面で冷静に試合を組み立て、勝負どころでギアを上げていく。
ただしスーパーボウルでは3度の敗戦を経験し、「勝ちきれない」という声がつきまとう時期もあった。
だが、キャリア晩年、RBテレル・デービスの活躍で、ランオフェンスの爆発力が加わると1997年・1998年シーズンにスーパーボウル連覇を達成。
2度目の優勝を果たした翌日、エルウェイは静かに現役から身を引いた。
現役時代から「将来はフロントに入るだろう」と言われていたエルウェイは、
実際にブロンコスのGMとなり、2010年代にもスーパーボウルを勝ち取っている。
MINT VAULTには、1998 Flair Showcaseの”1of1″が2種揃う。
Legacy CollectionとMasterpiece。いずれも彼のキャリアにふさわしい輝きを放っている。
■ペイトン・マニング
ペイトン・マニングは、史上屈指のフットボールIQと冷静沈着な性格で知られる一方で、ユーモアと人間らしさを持ち合わせた、NFL史でも稀有な存在だ。
その頭脳でプレーコール権を与えられていたペイトン・マニング。
敵の守備隊形を瞬時に読み取り、スナップ前に何度もプレーを変更する光景はおなじみだった。
あの特徴的な「OMAHA!」というコールは、実は単なるプレースナップの目印ではなく、ディフェンスへの“揺さぶり”とテンポ制御の一環だったという。
だがその緻密さの裏には、やはりストイックな精神があった。
チームメイトが帰宅したあとも、映像ルームに残ってプレーを見直す姿は複数のコーチに目撃されている。
一方で、テレビコマーシャルやイベントでは茶目っ気のある「愛されキャラ」として知られる。
2007年には人気番組『Saturday Night Live』にも出演し、子供を怒鳴る“鬼コーチ”役を披露。
その魅力から引退後も、試合中のテレビコマーシャルでもよく見る存在となっている
コルツでスーパーボウルを制したあと、キャリア後半にはブロンコスに移籍。
怪我からの復帰、肩の衰えと向き合いながらも、2015年に再びスーパーボウルを制し、輝かしいキャリアに終止符を打った。
紹介するカードは1998年にToppsから発売された、Chromeのルーキーカード。
既にこのときから貫禄がただよっており、彼を語るうえでは欠かせない”ドロップバック”が描かれている。
■パトリック・マホームズ
パトリック・マホームズは、単なる次世代型のQBの枠には収まらない。
彼のアスリートとしての実力は、NFLの常識を変えた存在だ。
高校時代は、野球とバスケでも州トップレベルの評価を得ていた。
特に野球では、父が元MLBで日本でも活躍したパット・マホームズということもあり、才能で投球感覚を身につけていたのかもしれない。
.それが、NFLで見せるノールックパス、左手スロー、サイドアームなど彼を象徴するアクロバティックなプレーへとつながっている。
プロ入り当初は様々な評価があったが、ここまでリーグを変えてしまうとは予想していなかっただろう。
試合中、10点差のビハインドでもチーフスファンは平然としている。
「マホームズならなんとかしてくれる」と思える安心感。それはかつてモンタナやブレイディが背負っていたものとよく似ている。
オフフィールドではチームメイトとの信頼関係に重きを置き、現代NFLにおけるスターとは思えないほど謙虚な姿勢を見せる。
その反面、試合となれば誰よりも熱くプレーし、無茶な体勢からでも1ヤードでも前に進もうとする姿勢が、ファンの心をつかんで離さない。
紹介するのは2017年、Paniniから発売されたDonruss Eliteのルーキーカード。
彼のルーキーカードの中では「Rated Rookie」の物が人気だが、こちらも貴重な一枚。
特にPSAの高評価品は珍しい。
時代を超えて語り継がれるクォーターバックたちには、それぞれの物語がある。
そして、その足跡はカードという形で、これからも私たちの手元に残すことができる。
好きな選手の過去を辿ること。それもまた、コレクションの大きな醍醐味だ。
ぜひこの機会にお気に入り選手のカードを手にとってほしい。
文:伊藤航(株式会社ミント)
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