大谷翔平投手(ロサンゼルス・エンゼルス)とアーロン・ジャッジ外野手(ニューヨーク・ヤンキース)のMVP争いがシーズン終盤にヒートアップしている。規定打席と規定投球回のW到達を目指す大谷。ロジャー・マリスが持つア・リーグ最多の61本塁打を目指すジャッジ。特に大谷は、本来なら消化試合になってしまうエンゼルスの残り試合を最後の最後まで盛り上げそうだ。
目が離せないそんな大谷だが9月5日と6日にトレーディングカードのコレクターをざわつかせる事件が起きた。
9月5日の対デトロイト・タイガース戦は、エンゼルスが10-0で大勝した。9点差となった8回、マウンドに上がったのはコディ・クレメンス内野手。あのロジャー・クレメンス投手の四男である。MLB通算354勝、歴代3位の通算4672奪三振の右腕はその剛球から「ロケット」と呼ばれた。父親はコディにも投手としてMLBで活躍してもらう願いを込めて、コディの名前は「Cody」ではなく、三振のKから「Kody」としたほどだった。
コディは、内野手ながら、実はメジャー6度目の登板だった。最近ではNPBでも見られるようになったが、MLBでは勝負が決まった試合で投手を無駄に使うことを避け、野手が登板することが多い。1死一塁で、打席に迎えたのが大谷。今季、別の試合で野手が登板した際、右越えの二塁打を放ったこともある大谷には本塁打が期待されたが、意外にもスローボールに苦戦。最後は68・4マイル(約110キロ)のボールに見逃し三振し「素晴らしいボールでした。長打か三振か、ぐらい思い切りいきましたけど」と苦笑いで振り返った。
大谷から自身初の奪三振を記録したコディは、ガッツポーズをして大喜び。記念のボールを三塁側ベンチに投げるように指示し、投げられたボールはMLB機構によって証明マークがつけられ、試合後、コディに渡された。「2ストライクになって、ラッキーなことに三振がとれた。(大谷は)驚いたんじゃない?。これを(大谷に)持って行って、サインをしてもらったら、最高だね」と興奮冷めやらぬ様子だった。
翌6日には、両チームのスタッフを通じて、そのボールが大谷に届けられ、再び、コディの元に戻ってきた時にはサインとともにメッセージが添えられていた。水原一平通訳に確認しながら、大谷が書いたメッセージは
「What a nasty Pitch!」(なんてえげつないボールなんだ!)。
コディも、タイガースのクラブハウスも大爆笑に包まれ、コディはさっそく、自身のSNSでこのボールを公開した。
「You@re the Man!」(大したヤツだよ!)
コディが写真に添えたメッセージもイケていた。
まさにインスクだ。インスクとは、「インスクリプション」のこと。トレーディングカードで言えば、おまけのひと言、のような意味で、サインとは別にタイトルと獲得した年を書き記す例が多い。カード会社に指示されて、メッセージを書き込むこともある。
そこで、大谷がコディに送ったメッセージがコレクターに注目されたのだ。そのひと言はセンス抜群。大谷の投球シーンのカードに、大谷自身がインスクとして書き込んでもおかしくないほどだ。これまで多くのトレカが作られ、高い市場価格をつけてきた大谷だが、インスク入りのカードはあまり見たことがない(大判写真やボール、ユニフォームなどへのインスクはあるようだが)。ほかにもファンを喜ばせてくれる名言カードが今後、登場するかもしれない。
Cove(ライター)
元スポーツ紙ライター。国内外のコレクションアイテムを収集して30年あまり。バブルヘッドのコレクションが自慢で日本唯一のバブルヘッドライター(自称)。トレカはレギュラカードのコンプリと日本人メジャーが中心。